- 2019-3-29
- 金/Gold
金-Goldはリアルマネー/real money 紙幣はペーパーマネー/paper money
要約と結論
金/Gold は昔おカネでしたが、今は違います。けれども国家は依然として莫大な量の金/Gold を保持しています。世界のエリートたちは今も金/Gold 保有を一種のパワーとして重視しています。一般市民もある程度の金/Gold を保有するのが得策です。なぜなら、おカネにまつわるルールを変更・決定するのはエリートたちだからです、プラザ合意やブレトンウッズ会議などの時のように。
目次
・はじめに
・私の日常生活においては、金/Gold はおカネではない
・国家レベルでは、今も金/Gold はおカネなの? !
・第二次世界大戦終結間近の1944年、米ドルが公式に基軸通貨となる時、金/Gold は重要な役割を果たした
・基軸通貨・米ドルで米国は圧倒的に強く
・ロシアと中国の動き
・IMFの動き
・まとめ
はじめに
このブログは、私の資産運用の実体験をもとに書こうと考えています。実際に私がやったことを書きます。それに加えて、私が資産運用について実際に考えていることもここに含めようと思いました。この記事には、考えたことを記します。
金/Gold についてです。
「金/Gold は安全資産。資産保全のために金/Gold を保有しましょう。」金投資の宣伝で良く目にするキャッチフレーズです。私も約20年前から田中貴金属の純金積立を続けています。始めたときは確か、橋本龍太郎・元首相が「金融ビッグバン」という言葉を作って「貯蓄から投資へ」を国民に呼び掛けていた頃です。それで私も単純に何かしようと思い、純金積立を始めることにしました。
その後私も歳をとり、もう少し深く金/Gold のことを考えるようになりました。最近、私は金/Gold とおカネ/money の関係に興味があり、集めた情報が少しありますので、備忘録としてここに記すことにしました。
今の私の日常生活においては、金/Gold はおカネではない
私の今の日常では金/Gold はおカネではありません。こんなことは当たり前のことです。
良く知られているように、ちょっと昔、金/Gold がおカネだった時代がありました。国々が制度として、金/Gold を価値の基準と定めていました。金本位制です。このようなおカネにまつわる制度を決定したり変更したりするのは、国を運営する人々などのトップ層、エリートたちです。
日本では1920年(大正9年)まで金貨が製造されていました。来年2020年は東京オリンピックの年であると同時に、金貨製造休止100周年でもあります。
金貨が製造されなくなった後も、国同士の間では金本位制が続き金/Gold はおカネでした。1974年(昭和49年)に「変動為替相場の管理に関するガイドライン」がエリートたちによって策定され、金本位制は完全に終わりを告げ、金/Gold はおカネではなくなりました。
これも良く知られていることですが、金/Gold がおカネだったのは明治、大正の時代だけではありません。3000年も前から人類は金/Gold をおカネとして使ってきました。
ということは、人類のおカネの歴史において金/Gold がおカネではない期間はほんの30分の1でしかないわけです。歴史から見れば、金/Gold がおカネでない現状は、例外的であると言えます。
国家レベルでは、今も金/Gold はおカネなの?!
国家レベルで見ると、金/Gold はやっぱりおカネなのか、と思える事象があります。金準備です。外貨準備という言葉に比べると耳慣れないかもしれません。国は、外貨と同様に、金/Gold も貯め込んでいるのです。金準備を外貨準備に含まれるものとして一体で扱うこともよくあります。
国はおカネを法律で定めていて、それ以外はおカネではありません。国は国民に対しては金/Gold はおカネではないと定めているにも拘わらず、金準備という形で大量に金/Gold を貯め込んでいます。日本だけではありません。世界中の国が金/Gold を貯め込んでいます。意味無く貯め込んでいるとは私には思えません。
この表は、G20のなかで金準備高においてトップ10に入っている国の金準備高です。日本は8位で、765.2トンもの金/Gold を保有しています。数字だけではピンと来ません。どのくらいの量なのかイメージするために計算をしました。6畳間に765.2トンの金を隙間なく詰め込んだとしたら、高さは何メートルになるのか。6畳間に高さ3.6メートルです。普通の天井の高さでは到底入り切らない量です。米国はトップで、8133.50トン。日本の10倍を超える量です。
金本位制は1974年(昭和49年)に完全に廃止されました。でも、国々は金/Gold を上の表のように大量に保持しています。このような現実を見ると、金/Gold はおカネではなくなったけれども、金/Gold が無ければおカネの概念も成り立たないのだ、と口にはしないけれどもエリートたちは心の中でそう考えているように私には思えるのです。
第二次世界大戦終結間近の1944年、 米ドルが公式に基軸通貨となる時、金/Gold は重要な役割を果たした
第二次世界大戦が終結する1年ほど前、1944年(昭和19年)、米国ニューハンプシャー州のブレトンウッズで会議が開かれました。この会議でエリートたちは戦後のおカネにまつわるルールを決めました。
この会議で、国際貿易の決済には米ドルを使うことが決まりました。米国以外の国もです。米国以外の国同士の貿易であっても、輸入の代金は米ドルで支払うことに決まりました。
理由は明白です。当時、主要国の中で米国だけが第二次世界大戦の戦禍を免れ、経済的に他を圧倒する優位に立っていて、世界中の通貨の中で米ドルが最も信用できる通貨だったのです。戦後の国際貿易を促進するうえでも米ドルで貿易の決済をすることに決めるのが妥当だったのです。輸出の代金を受け取る立場で考えれば分かり易いですが、世界大戦終結間際の当時、米国以外の国の通貨より米ドルで輸出の代金を受け取りたかったのは当然と言えます。
また、この会議でエリートたちは為替レートのルールも決めました。米国以外の44か国の通貨はそれぞれの外国為替レートで米ドルにペッグ(固定)されました。外国為替レートが固定(ペッグ)されたのです。米ドルを基準にして他の通貨の為替レートを決めたので、米ドル本位制です。また、米ドルのことを基軸通貨と呼びます。
この会議で決まったことで金/Gold に関して興味深いことがあります。
この会議で金本位制が再導入されたことです。再導入というのは、第二次世界大戦中はどの国も戦費を賄うために非常措置として金本位制を一時的に停止していたけれども、この戦争の終結がはっきり見えたので戦争以前の通常の金本位制に戻したといことです。1944年当時、金本位制が当たり前だったのです。ただし、国家同士においてのみ有効な金本位制です。一般市民は法定通貨だけを使っていました。
米ドルの価値は金/Gold の量で決められました。1ドルは35分の1オンスの金/Gold と等価と定められました。前述のとおり、米国以外の44か国の通貨は米ドルにペッグされたのですから、すべての参加国の通貨は間接的に金/Gold にペッグされたのです。
この会議が妥結に至った重要なポイントがあります。
米国は他の国々に対し米ドルの兌換性を保証しました。つまり米国は、もし望むなら輸出で得た米ドル札は米国が金/Gold に換えてあげます、ということを保証しました。米ドル札は1ドルにつき35分の1オンスの金/Gold と交換できる、と約束したのです。金本位制が当たり前だった当時、米国が米ドル札は金/Gold と交換できますと約束したからこそ、他の国々は米ドルを信認し、基軸通貨とすることを受け入れたのです。
その後米ドルは、1960年代頃からその信認に陰りが見え始めました。米国以外の国が大量の米ドルを準備していることに不安を抱きだしたのです。1965年(昭和40年)にはフランス大統領ド・ゴールが1億5000万ドルの米ドル準備を米国に持っていき金/Gold との交換を求め、金/Gold をフランスに持ち帰りました。その後も複数の国によって金/Gold の引き出しが続き、合計で140億ドル相当、4億オンスの金/Gold が米国から流出しました。
1971年(昭和46年)8月15日、米大統領ニクソンは米ドルの兌換性を停止、米ドルを金/Gold と交換することを停止しました。この出来事はニクソン・ショックと呼ばれています。これによって米ドルに対する信認は更に落ちていきました。
1974年6月13日(昭和49年)には「変動為替相場の管理に関するガイドライン」というものが適用され、1944年(昭和19年)以来続いた固定為替相場制および実質的な金本位制が公式に終わりました。それ以降、おカネは中央銀行が刷ったもののみになりました。金/Gold はおカネの表舞台からは姿を消しましたが、金準備という形で保持されています。
ニクソン・ショックの前は1ドルは35分の1オンスの金と等価でしたが、「変動為替相場の管理に関するガイドライン」が適用された1974年6月13日(昭和49年)までに1ドルは157分の1オンスの金と等価となり、米ドルの価値は大幅に下落しました。因みに今(2019年(平成31年)4月4日)はだいたい1ドル1280分の1オンスの金/Gold と等価です。
このようなことが起きたにも拘わらず今現在も米ドルが基軸通貨であるのは、1972年から1974年にかけて米国がサウジアラビアに働きかけて、原油価格は米ドル建てで値段を付け、かつ、米ドルで代金を支払わなければ原油を売らない、というルールを作り上げたからです。このルールの下、各国は原油を輸入するために多額の米ドル準備を持たざるを得ず、それ故に米ドルは基軸通貨であり続けているのです。
しかし今、原油の一部は米ドル以外の通貨でも取引されるようになってきました。特に中国の動きが目立ちます。2018年(平成30年)3月26日、中国の上海国際エネルギー取引所で原油先物が人民元建てで取引されるようになりました。2018年(平成30年)9月には現物受渡も実施され、存在感を増しています。なので、米ドルは依然として非常に強い基軸通貨ですが、僅かながらその強さに陰りも見え隠れするようになったと言えます。
基軸通貨・米ドルで米国は圧倒的に強く
米ドルが1944年(昭和19年)に基軸通貨、つまり貿易の決済に使われる通貨になったことで、米国は強力なパワーを得ました。米ドル決済は主に米国銀行の決済システムで行われます。米国の決済システムは米国政府の監督下にあります。だから米国政府は世界の貿易決済を良く把握できるようになりました。
米国政府が他国や他国の企業に経済制裁を科すというニュースはよくあります。そのなかで、経済制裁として対象を米ドル決済システムから遮断するというものがあります。これをやられると対象は米ドル決済ができないので貿易・取引が出来なくなり、国や企業の死活問題になるのです。米ドル決済システムは米国にとって強力なカードです。
このように、米ドルが基軸通貨であるということは、米国を他国に比べ圧倒的に強い国にしている要因のひとつなのです。
米ドル決済システムから遮断する形の経済制裁を、米国は結構頻発してきました。世界中の米国以外の国々からすれば、あまり有り難いこととは言えません。
ロシアと中国の動き
ロシアは、米国と仲の良い国とはあまり言えません。いろいろな面で対立が目立ちます。
例えば2014年3月、ロシアがウクライナ南部クリミアを編入した後、米国はロシアに経済制裁を科しました。ロシア要人の米国資産凍結が目立ちましたが、ロシア国内で VISA や MasterCard を使えなくしました。
それに対してロシアは自国民のために、ロシア国内と周辺地域で使える自前の決済システムを構築しました。このロシア自前の決済システムには米国は簡単に干渉することはできません。このようにロシアは、米国が科す経済制裁が効かなくなるように対策を打っています。
ロシアの動きで目立っているのが、金準備高を急速に伸ばしていることです。
ロシアの金準備は直近では2119.2トンあります。5位です。 これは、米国からの経済制裁、とりわけ米ドル決済システムからの遮断という制裁からの影響を受けないようにする対策と無関係ではありません。
国際貿易において、ロシアは貿易決済をお互いの通貨で行うことを志向しています。例えばロシア-中国間の貿易においては、中国からの輸入代金は人民元で支払いますよ、中国がロシアから輸入する石油やガスの代金はロシアルーブルで支払ってくださいね、という具合にです。このように人民元とロシアルーブルで貿易決済をすることが実現できれば、米国からの干渉を受けにくくなります。その一方で、中国はある程度の金額のロシアルーブルを準備しておく必要がありますし、ロシアはある程度の金額の人民元を準備しておく必要があります 。もしロシアルーブルが信用できない通貨だったら、中国はロシアルーブルなんか多額に準備したくないと考えます。でも、ロシアが保蔵している2119.2トンもの金/Gold を中国に見せたら、中国から見たロシアの信用は上がり、必要なだけロシアルーブルを準備しても良いだろうとなるわけです。仮に私が金/Gold なんて特別な価値の無いただの物質のひとつだと唱えてみても、国家間では上のロシアと中国の例のように、金/Gold で信用が上がるのです。
中国ですが、この国も米国とあまり仲良くありません。今、米中貿易戦争の最中です。中国もまた金準備高を最近伸ばしています。
中国の金準備は直近では6位で、1864.3トンです。この公表値には疑いの目が向けられていて、本当はもっと沢山持っていると見る向きもあります。
2002年、中国は上海に金/Gold の現物市場を立ち上げました。ここでは金/Gold の値段は人民元建てで表示されています。人民元で金/Gold を買ったり売ったりします。別の言い方をすれば、人民元を金/Gold に交換できます。
中国とロシアがお互いの通貨で貿易決済する場合、ロシアはある程度多額の人民元を準備しておかなくてはなりません。人民元が信用出来ない通貨だったら、ロシアは多額に準備したくないと考えます。でも、中国が上海に金/Gold 現物市場を設けていて、そこでいつでも人民元を金/Gold に交換できますよと言ったら、ロシアは必要なだけ人民元を準備しても大丈夫だと考えます。
今このような流れが起きていて、ロシアと中国との間で米ドルを使わない貿易が拡がっています。
ロシアのメディアRT(エルテー)は次のような記事を配信しました。
“
Russia-China real gold standard means end of US dollar dominance
https://www.rt.com/business/412546-china-russia-gold-standard-dollar/
RTのウェブサイトより引用
”
このような記事も配信しました。
“
Russia-China combined gold reserves could shake US dominance in global economy – expert tells RT
https://www.rt.com/business/415251-russia-china-gold-us/
RTのウェブサイトより引用
”
このように、ロシア、中国は金/Gold を味方につけて、米ドルを使わない決済システムを拡げようとしています。ロシアも中国も自国の通貨単独では米ドルの様には信頼されないことを承知していて、それ故に金/Gold を利用した戦略に出ています。
IMFの動き
IMFは、大雑把に言えば “ 世界各国の中央銀行の中央銀行” のような役割をしています。IMFは、SDRという通貨を発行することが出来ます。SDRは一般市民の財布に入ることはありません。IFMと国家との間で、あるいは国家同士の間で使われる通貨です。リーマンショックの後、世界各国で膨大な額の流動性供給が行われましたが、各国中央銀行はIMFからSDRを受け取り、それを根拠にあの膨大な額の流動性供給を行ったのです。SDRはそのように利用されてきました。
IMFも、決済システムにおける米国の他を圧倒する強さについて、如何なものでしょうか、と見る態度をとっています。 IMFは自身が発行できる通貨SDRを米ドルに代わる基軸通貨に出来たら米国の圧倒的な強さを調整できると考えている節があります。IMFはSDRの流通範囲を拡大したいと表明しています。SDRの流通を民間にまで拡げようとしています。それに呼応する形で2016年9月に世界銀行が、次いで2016年10月には英大銀行スタンダードチャータードの香港法人が、SDR建て債券を発行しました。
英大銀行スタンダードチャータード がSDR建て債券を発行したということは、SDRはもはや国家間でのみ流通する通貨ではなくなったということです。将来は、多額の国際取引を行う大手グローバル企業がSDRを使うようになる可能性があります。
多額の国際取引がSDRで決済されるようになった場合、どうなるでしょうか。SDR決済はIMF支配の決済システムで行われるはずです。そこに米国は簡単には干渉出来ません。米ドル決済システムから遮断するという形の米国による経済制裁は効果が低くなります。
世界の決済システムの趨勢
1944年(昭和19年)から現在(2019年)までの75年間、米ドルは基軸通貨であり続けています。しかし前述のとおり、米ドルへの信認は徐々に弱まってきています。1965年(昭和40年)フランスが、米国に米ドル札を金塊に換えさせて、その金塊を本国に持ち帰ったのは、その現われでした。米国からの金塊の流出を止めるために米国ニクソン大統領が1971年(昭和46年)に米ドルの兌換性を停止しましたが、その後も急速に米ドルは価値を落としました。この時、基軸通貨米ドルの危機であったと同時に、国際貿易の危機でもありました。1974年(昭和49年)までに米ドルは原油と結び付くことで基軸通貨の地位を保ちましたが、1973年(昭和48年)の中東戦争およびオイルショックで世界経済は低迷しました。中東戦争とオイルショックのほとぼりが冷めた1980年(昭和55年)から2010年(平成22年)までは高金利政策のおかげで強い米ドルが復活し事実上米ドル本位制が機能し米国経済は絶好調でしたが、2010年(平成22年)以降はジョージWブッシュ大統領によるアフガン侵攻の戦費とオバマ大統領による財政赤字のせいで米ドルへの信認は再び弱まっています。
ロシアと中国はロシアルーブルと人民元での国際貿易を拡げています。イランは、2016年(平成28年)からユーロ決済で欧州向けに、また2018年(平成30年)からインドルピー決済でインド向けに、原油を輸出しています。
脱米ドル決済の動きが拡がっているのは確かです。米ドルが基軸通貨という制度には既に制度疲労が起きています。お金にまつわるルールの変更をエリートたちが考えていても何らおかしくありません。